薬害イレッサ訴訟に対して大阪と東京の二つの地裁から和解勧告が出た。
この薬剤に関していえば、副作用である間質性肺炎の発生率、他の抗がん剤に比べてとりたてて高いものではないらしい。
また、その効果はがんの遺伝子変異の型と合えば非常に効果的な抗がん剤らしい。
(抗癌剤―知らずに亡くなる年間30万人 :平岩正樹)
それでも、死んだり、死ぬような目にあった患者家族や患者本人の気持ちにしてみれば「何故こんな副作用の薬を世に出したのか?」という気持ちがわき起こるのはわからないではない。
自分たちには責任はないと言って謝罪どころか受け付けようとしない厚生労働省の態度にも頭にくるものはあるだろう。
副作用死者が出てから副作用の勧告を厚生労働省が出すまでに時間がかかったことが頭にくると言うのもあるだろう。
そこまで気持ちを組んだとしても、やはりこの訴訟は日本のがん医療にとってマイナスでしかないと思う。
人間の身体はそれぞれまったく違うものであり、薬に対する反応はまったく異なるのが当たり前だ。
同じお酒を同じ量のんでも、全然平気な人から吐くほど酔う人や、死にかける人だっている。
その日の体調や、他のお酒や薬との飲み合わせにだって影響される。
つまり、すべての人にとって副作用のない薬というものは存在しようがない。
そして、抗ガン剤というのは癌細胞を叩き殺す薬である。
癌細胞は異常な細胞だとは言っても、正常な細胞と同じ仕組みを使って増殖するし、生存している。
その増殖や生存を抑え込む薬で、正常な細胞がとばっちりを受けない薬なんてありえない。
もろ刃の剣であることを承知の上でみんな使っていると思うのだが?
他の抗がん剤では間質性肺炎があることがちゃんとわかってから使われている、というかもしれない。
だが、そうするために厚生労働省がとり続けてきた方法は、新しい抗がん剤が出ても、海外で10年ぐらい使われていろんな副作用の症例の報告が積み重ねられるのをじっと待って、それからようやく日本で承認すると言う方法だ。
それなら最初から重篤な副作用について記載できるから。
こんな訴訟で苦しめられることはないから、厚生労働省はかつてはずっとそうした態度だった。。
ただ、それをすると日本の患者は新薬の恩恵にあずかれるのは海外で10年も使われてから初めてということになる。
たとえ日本で開発した抗がん剤でも10年も海外の症例報告を待ち続けるような、そんなことではおかしいのではないかということで、イレッサの場合は症例数が足りないままに一般販売に踏み切った。
そしたら他の抗がん剤同様の副作用が出た。
それに対しての訴訟がこれで、司法の出した判断は、国に責任があると。
こうなると、また、またしても、新薬を日本で使うことは難しくなる。
海外で、自己責任を理解している諸外国で症例が積み重ねられてから、長い長い年月の後に我が国でも承認される、ドラッグ・ディレイがまた繰り返される。
新しい薬の承認を待つ他のがん患者にも、
及び腰の新薬承認から一歩踏み出そうとした厚生労働省にも、
そしてこの訴訟を私などからも批判される原告団にとっても、
だれにもメリットのない訴訟だったと思うのだ。
もちろん、副作用で死んだ人への想い、苦しんだ人の想い、その留飲は下げられる和解勧告となったと思う。
だけど、これはドラッグディレイの時代に再び医療行政を押し戻す負の結果であると思う。
自分たちが留飲を下げた代わりに、今生きて、苦しんでいるがん患者の未来をふたたび閉ざす社会への道筋を作った訴訟なのだ。

